SDGsとダストコントロール

松下和夫 (協会監事、京都大学名誉教授)
(2023年7月11日に挙行された全国地域ブロック長等会議での講演を基にまとめたものです。)

SDGs(持続可能な開発目標)は、持続可能な世界を実現するために、2015年に国連で採択された2030年までの国際的な目標で、私たちが望む世界の姿を示す未来へのビジョンといえます。
SDGsは、現在の社会が直面する多くの課題を解決し、持続可能で平和な世界を構築していくために作られました。環境、経済、社会面において達成していくべき17の目標と、その目標を達成するために必要な169のターゲットから構成されます。「誰一人取り残さない」を中心概念とし、貧困に終止符を打ち、不平等をなくし、気候変動をはじめとする環境問題に対処する取り組みを進めることを求めています。


1.ダストコントロール業のビジネスモデルはSDGsの先駆け

ダストコントロール業は、独自のレンタルシステムを採用した事業です。リデュース・リユース・リサイクルの概念をいち早く日本に導入して事業化し、商品の開発から廃棄まで、環境にやさしい循環型社会の構築に取り組むなど、本業を通じてSDGsのゴールとターゲットに則った活動をしてきたといえます。したがってダストコントロール業のビジネスモデルは、SDGsの実現を目指す活動の先駆けであったといっても過言ではないと思われ、そのことに関係者の皆さんは誇りを持つことができます。

さらにダストコントロール協会では

①厳格な品質基準等を遵守し、安全で衛生的な製品の提供を目指し、“衛生的な生活環境づくり”、“循環型社会構築”をモットーとし、そのためにDCスペシャリスト育成講座などを継続的に実施してきました。

②また、レンタルシステムを採用することにより、ゴミ削減に寄与しています。さらに洗濯後の汚水は水質汚濁防止法等関係法令を遵守し、水質改善や水と衛生の安全安心の確保につとめています。

③加えて、協会独自の事業として、毎年5月30日を中心に環境美化運動「ごみゼロ」事業を全員参加で実施するとともに、交通安全と環境配慮のためのエコドライブを推進し、優良運転者の表彰を行ってきました。特に「ごみゼロ」事業については、2017年に累計参加者が50万人を超え、2030年には累計100万人の参加を目指しており、居住都市の環境美化に貢献していると評価できるものです。

今後は、より幅の広い視点からの引き続き積極的な取り組みが期待されます。たとえば、健康と福祉の増進や住み続けられる街づくりへの貢献、そしてジェンダー平等の推進などです。


2.時代のトレンドを味方に

どの事業にとっても、取り巻く環境は時代とともに変わり、追い風の時もあれば、向かい風の時もあります。大事なことは時代の流れを把握し、できればそのトレンドを味方につけていくことです。

ダストコントロール事業を取り巻く時代の動向は、次のように特徴づけられます。

①社会の動向:新型コロナウイルス感染症の拡大以降、衛生意識の高まりやリモートワーク、在宅勤務の増加により、役務提供サービスやフードデリバリーの需要が一気に拡大している。

②技術の動向:自動化運転やAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット) の進化が大きな要素となっている。流通するすべてのレンタルモップ・マットへのRFID(電子タグ)取り付けと工場のスマートファクトリー化は、この動きと連動している。

③地球環境への意識の高まり:レンタルのモップ・マットを洗浄して繰り返し使う資源循環型の事業や、地域とつながりの深い加盟店が出店するフランチャイズシステムは、SDGsと親和性が高い。

このような時代の変化と事業環境の変化に対応し、社会的課題の解決を目指す事業展開が求められます。そのためには、対面サービスと非対面サービスを融合することが必要です。また、「社会との共生」の観点から持続可能な社会と経営の実現に向けた取り組みが重要です。ダストコントロール業の特徴であるモップ・マットの循環型レンタルシステムの展開など、ものを大切にしながら、限られた資源を有効に活用することが一層望まれます。

また、気候変動問題については、脱炭素社会の実現に向け、2030年目標の達成を目指し、再生可能エネルギーの活用や省エネ設備への入れ替え促進などにより、CO2排出量の削減を進めることが必要です。


3.時代のトレンドを味方に

プラネタリ―・バウンダリー

現在世界では「地球には限界がある」との認識が広がっています。「プラネタリー・バウンダリー」(Planetary boundaries)という環境の健全性を理解する概念が、スウェーデンのロックストロームなどにより提唱されています。これは地球は負荷がかかり過ぎると回復力を失い、人類に望ましくない状態に変わってしまうとの考えから、地球の生物物理学的な限界を示した指標です。図に示すように、地球が健全な状態を保つのに重要な9つのプラネタリー・バウンダリーのうち、すでに気候変動、生物多様性の損失、地球規模の土地利用の変化、生物地球科学的循環(窒素と淡水域におけるリン)の4つは限界値を超え、危険域に入っています。このような結果をもたらした大きな原因は人間の活動です。SDGsは地球に大きな負荷をかけてきたこれまでのやり方を変革する挑戦といえます。1972年にローマクラブにより「成長の限界」というレポートが発表され注目を集めましたが、現在は「限界の中での成長」を模索する時代に入ったと言えます。


4.ダストコントロール業とSDGsの今後に向けて

今後のSDGsへの取り組みを考えると、ダストコントロール業の強みを活かした独自性のある展開が望まれます。
そのため、まずはそれぞれの会社の企業理念の再確認と将来ビジョンの共有が必要です。そして経営トップの理解と意思決定が不可欠です。自社の活動内容の棚卸しを行い、SDGsのゴールとターゲットとの紐付けて説明できるか考えることも有益です。

また、地域での信頼やつながりを高めることも大切です。ダストコントロールは地域に根ざした事業であり、活動地域住民との距離感も近く地域課題との関係も強いことから、現場での創意工夫により新たな製品やサービスを生み出し、社会課題の解決に向けた取組にビジネスの要素を取り入れ、SDGs をビジネスにつなげることが期待されるのです。

かつて近江商人は「三方よし」の経営哲学を提唱しました。「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」というものです。現在は「売り手よし、買い手よし、社会よし」に加えて、「未来(地球環境)よし」の「四方よし」が求められます。「経済的価値」の向上に加え、「社会的価値」の向上、すなわち共通価値の創造(CSV)経営が求められているのです。


松下和夫(まつしたかずお)
松下和夫(まつしたかずお) 京都大学名誉教授、国際アジア共同体学会(ISAC)理事長、地球環境戦略研究機関シニアフェロー、日本GNH学会会長。京都大学大学院地球環境学堂地球環境政策論元教授。環境省、OECD環境局、国連地球サミット事務局に勤務。環境行政、特に地球環境政策と国際環境協力に長く携わってきた。主な研究分野は環境ガバナンスの見地に立ったサステナビリティ研究、気候変動、地球環境政策。著書は、『気候危機とコロナ禍』、Environment in the 21st Century and New Development Patterns、『環境ガバナンス』等。